武田長兵衛が伝統的な漢方薬の販売を始めたのは、曾孫が西洋医薬品の輸入を始める100年も前、1781年のことです。その後140年にわたり、武田薬品工業は、絶え間ない技術革新と戦略的合併・買収によって成長し、80ヶ国以上に拠点を持つ業界の巨人へと成長しました。
武田薬品工業のリーダーは、同社を未来へと導くために、多種多様な事業を1つのデジタルエクスペリエンスに統合するという、困難な課題に直面していました。武田薬品の最高デジタルトラスト責任者であるマイク・タワーズ氏は、アイデンティティとアクセス管理(IAM)を一元化することで、この問題の解決に乗り出しました。彼のチームは、Oktaのテクノロジーを基盤にしたIAMプラットフォームであるTakedaIDを立ち上げ、そして現在では、360万人の患者さん、医療従事者、ドナーが1つのログイン認証情報で武田薬品のすべてにアクセスしています。
TakedaIDは、全社的なユーザーエクスペリエンスを簡素化するとともに、チームのゼロトラストセキュリティ戦略を推進し、信頼されるデジタルエクスペリエンスの鍵となるアイデンティティに焦点を当てることで、認証プロセスを可視化および制御しています。
また、将来における技術革新と事業拡大に向けた準備も整いました。現在、武田薬品は、がん治療、患者モニタリング、血漿駆動療法など、従来の製薬にとどまらない消費者直結型のビジネス分野に進出しています。これらのビジネス分野は、信頼できるデジタルインタラクションに大きく依存しています。
デジタルのアップグレードが主役に
武田薬品の7万人の従業員と契約社員は、がん、消化器病、神経科学、希少疾患、⾎漿分画製剤における主導力で知られています。過去数十年にわたり、世界中のタケダの製品チームは、さまざまな製品発売キャンペーンを通じて新しい治療法を市場に投入してきましたが、そのキャンペーンには必ずウェブサイトやカスタマーポータルが含まれており、それぞれに独自の認証プロセスがありました。
このアプローチは、デジタルで会社とやり取りする一部の個人にとって断片的なエクスペリエンスをもたらしました。「各治療法に独自のブランド体験と個別のログインがありました。理想的には、タケダはポートフォリオ全体のすべてのブランドに対して単一のログインを望んでいました」と、武田薬品のデジタルエンゲージメントおよびDevSecOpsの責任者であるボブ・ダーフィー(Bob Durfee)氏は述べます。
「そのとき、これまでとは違うやり方で処理しようと決めたのです」と彼は語ります。
また、サイバーデジタルトラスト組織として、チームは武田薬品の各デジタル資産のセキュリティポリシーについて、オーナーシップを強化する必要があることにも気付きました。「これらのパスワードが安全であることを確認する必要がありました」とダーフィー氏は言います。
また、会社が成長するにつれて規模も懸念材料となりました。「ブランドのウェブサイトには100万人のユーザーを抱えているものもありました。でも、一度に100万人のログインを処理できるでしょうか?」と彼は言います。
武田薬品のチームは、デジタルエクスペリエンスを安全にし、簡素化するためには、全社的にアイデンティティを一元化しなければならないことを認識していました。「揺るぎないアイデンティティは、セキュリティとユーザーエクスペリエンスの鍵となっています」とダーフィー氏は言います。「アイデンティティは、信頼できるデジタルサービスの基本であり、最も重要なポイントなのです」何世紀にもわたる武田薬品の進化の次の段階として、チームは彼らのIAMアプローチに革命を起こすことにしました。
アイデンティティに特化したクラウドベースのパートナー
まず、アイデンティティの管理を安心して任せられるクラウドネイティブなパートナーを探す必要がありました。「すべてをクラウドで行っているのは、スピードが必要だからです」とタワーズ氏は言います。「スピードとデータは新しい石油のようなものなのです」
幸いなことに、タワーズ氏はどこに頼るべきかを知っていました。タワーズ氏は、以前の組織でOktaとの提携を成功させ、Oktaの最初の顧客の一人となっていました。「Oktaは、セキュリティスタックの重要な一部分であり、私のキャリアツールキットの中でも重要な位置を占めています」とタワーズ氏は話します。
Oktaがアイデンティティに一点集中していることも、もう1つの大きな決め手でした。「アイデンティティをリストの3番目か4番目に挙げている企業は他にもあります」と彼は言います。「患者が疾患を管理したり、医療情報にアクセスしたりするときに、利用できなかったり、信頼できないIAMを使うわけにはいきません」
タワーズ氏は、武田薬品が直面するかもしれないアイデンティティの課題に対処するための最先端のツールを提供するOktaのチームを、経験から信頼していました。デジタルプレゼンスを拡大・最新化するうえで、Oktaは、武田薬品が長年取り組んできた「誠実さと信頼」を支える技術的な基盤となるでしょう。
ブランドと事業部門全体を通じて統一されたアイデンティティ
タワーズ氏が武田薬品に入社した当時、武田薬品はシャイアー・ファーマシューティカルズの買収を進めており、同社はすでに数年間Oktaを利用していました。ダーフィー氏もシャイアー社から武田薬品に入社したため、Oktaの価値を知っていました。徹底した調達プロセスに基づき、2人は全社的なOktaへの移行を主導しました。
武田薬品は、従業員と外注先のアイデンティティを保護し、生産性を向上させ、全社でイノベーションを創出するために、OktaのWorkforce Identity Cloudを導入しました。社外のデジタルエクスペリエンスの安全性を確保・合理化し、患者、パートナー、介護者の信頼を高めるために、Oktaのカスタマーアイデンティティソリューションを採用しました。同社のチームは、Workforce Identity Cloudの基盤を拡張し、武田薬品のエコシステム全体で統一された、新しいアイデンティティプラットフォームであるTakedaIDを構築しました。
TakedaIDは、組織全体の異なる複数のアイデンティティを、単一のアイデンティティに統合します。隣接するテクノロジーと容易に統合するOktaの能力は、あらゆるもの、そしてすべての人が、統一されたエコシステムの一部であることを意味します。モバイルから治療用機器まで、武田薬品のデジタルタッチポイント全体にわたり使用できる、単一の統合アイデンティティを、患者さんや医師に割り当てることができます。「Oktaは、これらの人々を結びつけるために必要な、すべての認証情報を取得・配布するための主要なパートナーです」とタワーズ氏は言います。
チームを支えるチーム
現在、TakedaIDは360万人の登録ユーザーを誇ります。武田薬品のチームは、Oktaのプラットフォームはこのボリュームを容易に処理できると確信しています。テストでは、このプラットフォームは毎分500件の認証を簡単に処理でき、1分間に最大5,000件の認証が可能であることがわかっています。
予想されるユーザーベースの先を見据え、Oktaの最先端機能を最大限に活用するには、OktaのCustomer Firstチームは、欠かせないパートナーだとダーフィー氏は言います。「Oktaは、単に質問に答えてくれるだけではありません。業務が少しでも楽になるように率先してその経験を活かしてくれます」
武田薬品のチームは、社内のアイデンティティを統一するため、OktaのCustomer Firstチームのさまざまなサービスを利用しており、TakedaIDを社内のデジタルネットワークの隅々まで拡張しながら、Customer Firstチームの重要な専門知識を引き続き活用しています。
「OktaのCustomer Firstに営業的な意図があるように感じたことはありません」とタワーズ氏は言います。「その代わり、現在あるものから確実に価値を引き出すことに100%コミットしています。私にとって、それはとても重要なことです」
武田薬品工業の専任カスタマーサクセスエグゼクティブは、同社のOkta導入の全過程で、戦略的なパートナーとして稼働開始のマイルストーンを設定し、必要に応じてOktaの主要なステークホルダーとの調整を行いました。彼らの支援により、チームは何十万人ものTakedaIDユーザーを迅速かつスムーズにオンボーディングすることができました。
セキュリティとスケーラビリティの向上は、信頼性の向上にもつながります。「2020年4月にTakedaIDが稼動して以来、ダウンタイムはゼロです」とダーフィー氏は言います。
アイデンティティの一元化がもたらす波及効果
武田薬品のチームは、Oktaの新機能を取り入れ、テクノロジーに関する専門知識を習得することで、より多くのメリットを享受しています。
平均すると新しいウェブサイトコンポーネントの導入に費やす時間は、以前の5分の1に短縮されています。マーケティングエージェンシーの開発者とのコミュニケーションは、最新の認証プロトコルに精通しているかどうかにかかわらず、よりシンプルになりました。「Oktaのコンポーネントを渡すだけで、それを使って実行してくれます」とダーフィー氏は言います。「おかげで、みんなの仕事がだいぶ楽になりました」
Oktaでアイデンティティを一元化することの波及効果には、誰もが驚いています。「さまざまなチームのクリエイティブな人々が、これらの新しい機能を取り入れて、私たちが考えもしなかった問題に適用できます」と彼は言います。
たとえば、武田薬品のマーケティングチームは、より完全で信頼性の高いデータセットを実行できるようになり、よりターゲットを絞ったキャンペーンを行えるようになりました。「顧客関係管理の観点からは、各ユーザーの関心事、つまり、どのウェブサイトに定期的にログインしているのか、どのような種類のパンフレットやビデオをダウンロードする傾向があるのかといったことを、より広い視野で把握できるようになりました。これらの情報によって、新しい関連情報が利用可能になったときにオムニチャネル戦略に沿ってそれぞれのユーザーに関心の高い情報を提供できます」とダーフィー氏は言います。
より良い医療アクセスと効率化への道を切り開く
武田薬品が消費者直結型のサービスを展開する上で、安全でパーソナライズされた患者直結型のサービスを提供できるOkta搭載のTakedaIDの機能は、大きな意味を持ちます。会社の成長にとどまらず、医療へのアクセスと効率の向上は、究極的にはタワーズ氏にとって、個人的に最も関心を持っていることです。ほとんどのアメリカ人と同様、タワーズ氏も自分自身や家族の医療に対処するときに、不満足な思いを定期的に経験しています。
彼のビジョンはシンプルでありながら、広範囲に及んでいます。「今年は、タケダのすべてを1つのアカウントにします。おそらく数年後には、処方箋をもらうときも、急患を診るときも、保険金を請求するときも、医療に必要なものはすべて1つのアカウントで済ませられるようになるでしょう。
「タケダのような企業は、Oktaの支援によって、新たな可能性を切り開くことができるのです」とタワーズ氏は述べています。
武田薬品工業について
武田薬品工業は、日本に本社を置き、80ヶ所の国と地域にオフィスを構える、価値観に基づく研究開発主導型のグローバルバイオ医薬品リーダーです。患者、従業員、そして地球へのコミットメントに導かれながら、人生を変える治療法を発見し、提供することに全力を注いでいます。武田薬品は、腫瘍学、希少遺伝学および血液学、神経科学、消化器病学の4つの治療領域における研究開発に取り組んでいます。また、⾎漿分画製剤やワクチンを対象とした研究開発投資も行っています。